島本理生はすごい
1点目は、"なんとなくありそうでどこにもない恋愛”を、ずっと様々な角度からあの手この手で描写し続け、一定の層に絶大な人気を保っているという点。
2点目は、ベタベタな設定だなぁと読み始めるのに、文章のリズムが良いせいでなんだかんだ結局面白い点。
島本理生の小説に出てくる主人公はだいたい「敬語で優しげで、嫌みのない年上の男」を好きである。
短編集になるとその限りではないのだが、長編だと結構そうだ。
そんな奴いるかよ……という気持ちになるが、蟹鍋に誘ってきたりと妙にリアリティがあるので、なんとなく神保町あたりをさまよっていれば出会えるような気持ちにさせられる。
先日、本屋で久しぶりに島本理生の本を買った。
『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』という作品。
主人公が年上の男を好きになるのだが、その上その男がなんと病気なのだ。
一周したな…と思った。
ベタが一周すると新しくすら感じる。逆にこれまでは病気じゃなかったことに驚きさえした。
こんなベタな設定じゃ、普通であればガラケー時代のケータイ小説になってしまってもおかしくない。
しかし、島本理生はすごい。
島本理生の魅力は、この水のように読みやすい文体であろう。言葉が脳にするすると入ってくる。
読んでいるうちに彼女らの空間にしっくりと自分が溶け込んでいるのを感じる。
大した山場があるわけではなくても、島本理生は面白いのである。
ぜひ読んでみてほしい。